不測の事態、その後①

怪我が治り、新たな勤務地でこれまでにも増して充実するぞ、と意気込んだ私。
ですが、そうもいかないことを思い知らされます。

現場にでる時の私は、防火フル装備に変身するのに加え、サイレンと緊急走行でアドレナリンはどんどん増幅されて、
もうそれこそ無敵になった気分でした。
某有名テレビゲームで例えると、「スターを取った状態」とでも申しましょうか。
身体は光り音楽も変わり、敵や炎にぶつかっても死なない、あの状態です。
そして現場で生身の人間が生きられない状況を経験して帰る、ということを積んでいくと、その勘違いは増々強くなります。

でも、ゲームで無敵の時も、穴に落ちるとダメなんですよね。無敵だからとドンドン飛ばしていると、勢い余って穴に落ちる。
そんなことを思い出して、自分と照らし苦笑いです。苦笑いで済んだ私は幸運です。感謝してこれからを生きなければなりません。

もう本当に、「調子に乗っていた」・・・これに尽きます。

復帰後も、アーケード商店街の火災など、さまざまな現場がありましたが、もう戻れなくなりました。
怖くて仕方がない
のです。

商店街の火災は復帰直後のことでした。後着だった我々は、隣接する建物の屋根の上から延焼阻止の放水をすることになりましたが、
もう私の頭の中は、墜落への恐怖しかなく、放水どころではありませんでした。
恐怖心は高所だけにとどまりません。ほかの火災でも、薄煙に視界を失っただけで、退路を探してパニックに近い状態の自分がいました。
高い場所、狭い場所、水・炎・熱、呼吸や視界を失う恐れのある環境、…そういう困難な状況だからこそ人は助けを求めるのです。
そしてそこで仕事をするのが消防の仕事。これまで、それらすべてプロとして「受けて立つ」という気概だけに支えられてきました。

でも、事故の後、誰よりも率先して逃げたくなっている自分を発見してしまったんです。

そこから私は、どこか活動に入り込めず、引いて見ている、むしろ近寄りたくない、という感覚を強くしていきます。
もしかしたら、また消防士になる前の、あの時の「居合わせた近所のにーちゃん」に戻ったのかもしれません。
強烈なトラウマと引き換えに、どんどん情熱を失っていく自分。なんとか立て直そうと努力はしたものの、やはりそう簡単ではなく、
ストレスで徐々にコントロールを失い、家族や新人にきつく当たってしまうなど、どんどん“コジらせて”いくのでした。

                                      つづく…