不測の事態は起きる⑤

その小さいベランダには、エアコンの室外機が置いてあり、少なくとも私には、
人が乗ってもおかしくないように見えましたし、もちろん焼けているような痕跡もありません。
私は何のためらいもなくベランダに出ると、ホースを手繰って構えようとしました。

そこ危ない!!

と声が聞こえたかと思った、次の瞬間、自分の身体がフワッと宙に浮く感覚を味わいました。
私の乗ったベランダは、壁から剥がれるようにして崩壊したのです。
成す術無いとはまさにこのこと。すべてを覚った私は、迫ってくる1階駐車場のアクリル製の屋根を見て
「ここで止まってくれないかな…」と淡い期待を抱きつつ、案の定突き破ったところで
怖くなって目を閉じました。
「あぁ…もし下に柵でもあったら…この先どんな痛みが体をはしるのだろう」
そんなことを考えながらも、ただただ落ちることしかできません。

ほんとに一瞬でそんないろいろ考えたの?と思われたかもしれませんが、
思い返すと本当にこれだけのことが頭をよぎったのです。
事の一部始終を見ていた隊員も、「スローモーションに見えました」と後で話していました。
これが人間の感覚なのかも知れません。

結局私の身体は、アクリル屋根の後、さらに停めてあったバイクに当たり、地面へ。
何度かクッションがあったおかげで、膝を強打した記憶はあるものの、
身体を貫かれるような痛みを感じることもなく、助かったようでした。

「立てれば大丈夫!」と自分で言い聞かせながら、身体を起こすと、無事一人で立つことができました。
すぐに私は両脇を抱えられ救急車へ。
装備を解いて、ストレッチャーに乗せられると、いつもと違って”観察される側”にまわり、
全身観察で外傷の評価を受けます。

まさか自分が評価される日が来るなどとは思ってもみませんでした。

                         つづく…

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週末。