不測の事態は起きる④

私が先頭を行き、階段の途中で筒先を持った隊員に前へ出るよう促します。
狭い階段なので、もみくちゃになりながら隊員2人と入れ替わり、後ろに張り付いていると、
放水している隊員から「熱い…熱い…」と聞こえてきます。
(このあたりの判断は隊長としてとても難しいものがあります。)

そうこうしながら2階廊下に上がり、熱気を押し返しながら燃えていた部屋に辿り着いた我々。
その頃には後続の隊が、路上から、窓に掛けられた三連ばしごの上から、続々と放水していて、
内と外からの放水によって、炎の勢いは抑えられました。
室内にいると、外からの注水がバンバン入ってきます。
対面注水を嫌った私は、「自分たちの任務は全うした。後は他に任せよう。」と、
隊員にいったん部屋の外へ退くように言いました。

廊下へ下がって筒先を置き、建物から外に出て報告などした後再び2階へ戻ると、後から来た別の隊が、
我々が先にやったと同じようにホースを延ばしてきて、室内で放水を始めていました。
「(あえて自分たちが退いたところに、他が入っていることに少し複雑な心境もありながら)…じゃあ後は任せるか」
そう思った私は、他に延焼が無いか確認しようと、あちこち見てまわっていました。

ふと燃えていた部屋の一番奥の隅(最も正面側)を見たとき、まだはっきりとした”炎”が残っているのに気が付きました。
家具か何かで、注水の死角になっていて、放水している隊員もホースの長さが限界なのか、
うまく消火できずにいます。

その少し前に、中隊長に「鎮圧」を進言していた私。
“まだ生きている炎”を前に、「早く消さないと」という焦りと、なかなか消せずにいるこの状況に
じれったさを感じて、どうしようか考えていると、
自分たちのホースが余っていることを思い出しました。

別の角度から消火してやろうと、隣の部屋の、建物正面側に設けられた小さなベランダに出ると、
なんと、窓越しに炎を正面から捉えています。

「おーい、筒先もってこい」

私の隊の隊員たちを呼び寄せ、ベランダから放水するよう命じました。
隊員たちは突然言われて状況がよくわからなかったのでしょう、その動きが要領を得ないことに
イライラしだした私は、

俺がやる!

と言って筒先を奪い、フル装備のまま水の乗った筒先とともに
その小さなベランダに出ていくのでした。

                       つづく…