不測の事態は起きる②
それは人事異動に皆が浮足立つ3月末の、ちょうど私が本署に異動の内示を受けた直後のことでした。
いつもと変りなく昼食を終え、デスクで一息ついていたところへ、火災出場の指令が飛び込んできます。
「建物火災第一出場、○○町〇丁目・・・」
ガレージにダッシュしながら、機械の冷たい音声で住所を聞いた私は、「来たか!」と思いました。
私が勤務していたのは、市域の一番北にある出張所。そして指令が下ったのは、そこよりも北の住所。
ということは、どう考えてもうちが現場まで一番近く、私の隊を置いて他に、先に現場到着する隊は無い、つまり
“最先着確定“です。
その小隊長の責任は重大です。
中隊長到着までの間、現場を仕切るとともに、自隊の消火活動を成否が、その後の火災の被害の大きさを決定づけます。
CAFS搭載のスモールタンク車に乗り組んでいた我々の任務は、(人命救助は当然として)直近・泡放水・即時消火。
「最初の一撃をいかに早く火勢に喰らわすか」が勝負です。
出場してすぐ、車内から現場方向に黒煙が見えます。
「黒煙確認。」
無線で一報を入れた私は、戦術を隊員に周知します。
「直近、泡!」
普段から戦術について隊で確認してあるので、隊員たちも「お任せあれ」と言わんばかりに
やるべきことを瞬時に理解し、それ以上の言葉は必要ありません。
そして私は、大きなプレッシャーに、「来るなら来てみろ」と腹をくくったのです。
つづく…