そもそもなぜ…③

そうこうしている間にも、もちろん消防隊は到着していました。
直近の消火栓に着けたポンプ車から、隊員さんがホースを延ばしてきます。

「おー、本物が来た」

私はのんきにその状況を眺めていました。

その隊員さんがどんな方だったかは忘れてしまいましたが、
ホースを延ばす表情が必死だった、ということだけは印象に残っています。

・・・冷めて見ていた自分とは真逆

もちろん相手はプロです。それを生業としています。
手を抜くことなど許されません。

一方私はただの素人。近所に住むにーちゃんです。傍観していようと当たり前で、
誰もそれを責めはしません。
・・・自分以外は。
「ご近所さんのために、助けになろうともしなかった」という事実だけが
私の中に残ります。

この時人生で初めて消防の現場を、さわりだけですが目の当たりにして、
「この人たちは、誰かの一大事ばかり相手にする仕事をしているんだ…。」
と思いました。

この時にはっきりと決断したわけではなかったと思います。
ですが、この出来事が自分の中でとても大きなきっかけとなったのは、間違いありません。

数日後、アメリカへ戻るため父が空港まで送ってくれました。
後に父から、「あの時おまえはもう行きたくなさそうだった」と言われました。
自分でそんなつもりはなかったのですが。
すでに心は「道」を選択していたのかもしれません。

再びアメリカに戻るも、すでに学業が手につかなくなった私は、数か月後帰国し、
公務員試験の猛勉強を開始します。
その甲斐あってか、とても幸運なことに、消防士として採用されることとなったのです。

                           つづく…

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